子どもをネット・ケータイの被害から守る青森情報交換会議が2月13日、青森県総合社会教育センターで開かれた。

会議では、弘前大学教育学部のネットパトロール隊から、子どもたちを取り巻くインターネットと携帯電話の世界で起きているいじめや有害情報問題が、県内でも保護者が知らないまま深刻化している状況が報告され、県内市町村、学校から実態や指導活動が発表された。

昨年4月施行された青少年インターネット環境整備法のミニ講義のほか、対策先進地の群馬県や安心ネットづくり促進協議会が全国の実態を報告。
約100人の参加者は、県内での取り組みは遅れており、父母、学校、行政が一体となり啓発活動を行うことが急務という認識で一致した。

今後、全県的なネットワークを作り、入進学時期の父母、子どもへの啓発活動に力を入れることにしている。

◆基調提案◆

高1への啓発重要 所持禁止は逆効果 フィルタリング義務付け

弘前大学「ネットケータイ問題」研究プロジェクト代表
教授 大谷良光氏

写真:大谷氏登壇の様子県内の携帯電話の所持率は、中学2年では28%で、全国平均の半分くらいの状況だが、高校2年になると、全国と同じ96%になる。中学3年から高校1年に急激に所持率が上がるのが本県の特徴で、その4割が合格から入学の間に買っている。この時期の啓発活動が重要になる。

県内3市の高校4校の協力を得て、携帯所持者662人の調査を行ったところ、65%がメールで不快、恐怖体験をしていた。有害情報サイトからメールで誘引は40%、架空請求メールは23%あった。

さらに、掲示板を通じて人と会って15%が身の危険を感じていた。県内の高校で修学旅行中に掲示板で知り合った異性と会ったり、車で迎えに来たケースもある。

緊急の被害防止策として、ネットいじめにはメール受信拒否設定をすすめる。

有害情報にはフィルタリング設定をする。生徒本人、保護者に啓発するとともに、携帯電話会社には方式の改善、SNS運営会社は監視態勢の強化、販売員には自社のフィルタリングをよく理解して勧めてもらうように要請する。

さらにフィルタリングの設定が青少年インターネット環境整備法で保護者の責務となったことを呼び掛けてもらうように、本会議の名前で各校長やPTAに働き掛けたい。

写真:講演時の会場の様子

長期的には、学校での所持禁止などの指導は、携帯を便利に使っている子どもには逆効果。リスクとモラルを指導して、自覚を高め被害防止対策を勧めるべき。行政と民間が連携したネットワークを作り、保護者と子どもにこの問題を説明できるインストラクターを養成して監視と啓発活動を行うようにする。

⇒フィルタリング
犯罪や非行に関係するサイトをブロックする機能。2つの方式があり、ホワイトリスト方式は公式サイトのみ閲覧可能、ブラックリスト方式は有害サイトのリストをもとにブロックするが、記載されないサイトは子どもが見てしまう可能性がある。

◆情報交換会から◆

使用のルールや知識身につけて

安心ネットづくり促進協議会
事務局次長兼企画部長 石原友信氏

写真:安心協石原氏登壇の様子

インターネットは急速な普及にともない違法・有害情報なども多い。利用者が楽しく賢く安心して使えるネットにしようと事業者、教育関係者、有識者らが2009年に設立したのが安心ネットづくり促進協議会だ。

活動はインターネットの光と影の部分を知り、賢く使うための運動を展開していく普及啓発、違法・有害情報が青少年に与える影響を調べる-などの調査の2つ。このうちコミュニティサイト検証作業部会の報告から、青少年が被害に巻き込まれる構図が明らかになってきた。

コミュニティサイトの利用初心者の被害が多く、利用期間が長くなれば被害は減少していく。大人の加害者は、だまして児童ポルノなどをつくろうとする、ネットでナンパする-2つのタイプ。事業者の継続した対策が重要となる。

普及啓発をすすめていくため、ポータルサイト「もっとグッドネット」をつくった。自治体や企業、有識者、NPOなどが参加し、企業や各地での取り組み紹介、家族でケータイの使い方ルールを決めるナビ-など大人から青少年向けまで多彩なコンテンツがある。安全なネットづくりへ参加し、ぜひ参考にしてほしい。

こうした事業のほか、地域で必要な知識を学ぶイベントを開催している。熊本で実施した際、参加者に子どものケータイ使用をどう思うか調査(複数回答)したら「法規制で使わせない」7%に対し「保護者の勉強による対策が必要」「家庭のルールづくりが必要」がそれぞれ72%となるなど、保護者の勉強が必要だという意見が圧倒的に多かった。安心して賢くネット利用ができる環境づくりに努めていきたい。


思いやる心学びモラル意識向上

八戸市立白山台中学校
講師 粟谷修三氏

写真:粟谷氏登壇の様子

情報モラル向上のために行った道徳の授業を紹介したい。教室内LANを使い、掲示板を開設。
(1)悪口を入力
(2)その悪口が自分に対してならどう感じるか
(3)悪口を書いている時の気持ちを入力
-の順で授業を行った。

悪口は約3分のうちに84件も寄せられた。「アホ」「うざい」など簡単なものだったが、自分に対してだとしたら96件が「ショックだ」というものだった。

「相手が見えないから」「ばれないから」「直接言いにくいことも書きやすい」などの理由で書き込んでいる。

この後、ネットパトロール隊員に実際の被害の話などを聞き、「ネット上でも日常でも人を思いやる気持ちを大切にしたい」「相手の顔が見えなくても、画面の奥には必ず人がいることを忘れずにいたい」などの感想が寄せられた。

頭ごなしに規制してしまうよりも、理解を深めることでモラルを向上させ、被害を防げるのではないかと考えている。


ゲームサイトで被害に遭う例も

ぐんま子どもセーフネット活動委員会
委員長 飯塚秀伯氏

写真:飯塚氏登壇の様子

ケータイはパケット料金定額制が登場し画像を送ったり、オンラインゲームが使い放題。暇さえあれば遊ぶ子どももいる。

弱いフィルタリングのブラックリスト方式でもつながってしまうのがゲームサイト。ゲームだけと思いがちだが、チャット機能で話したり、個人情報を書き込めるプロフ機能、サイト内メールなど、出会い系に悪用されるような機能も多い。

実際にインストラクターの監視では、10代の女の子にメールアドレスの交換を求めたり、わいせつな内容を書き込む例もあった。また携帯型ゲーム機からネットにつなぐとわいせつ画像が検索できる。

ゲーム機のフィルタリング機能強化に注意を払いたい。ケータイのゲームサイトも「無料」とうたっていても有料の部分がある、アダルト系や出会い系にリンクされる-と問題点が多い。保護者としてこうしたサイトでは遊ばせたくない。その気持ちを伝えることが、活動の基本になっている。

◆質疑・意見交換◆

~ 安易な防御解除は禁物 地域全体で活動を ~

質問:フィルタリングを設定したが、子どもの要望で解除した。そういったケースは多いのか。

-特に高校生になると多い。フィルタリングが弱いブラックリスト方式だと知らないうちに危険なサイトにつながってしまう場合もある。
小中学生にはフィルタリングが強いホワイトリスト方式を譲らない姿勢が必要。
地域全体でフィルタリングについての共通認識を育てることも大事だ。

質問:携帯型ゲーム機でもわいせつ画像が見られたが、フィルタリング機能はついているのか。

-ゲーム機には基本的についていない。フィルタリングのソフトが販売されているが、認知度が非常に低い。ぜひ設定を。

質問:学校での取り組みは。

-学校での授業や取り組みだけでは啓発は進まない。市民や行政、ボランティアなどと総合的な取り組みを進めるのが一番だと思う。学習会を開き、共通の認識を深めるべき。

質問:海外でのネットの犯罪状況は。

-日本はサイバー犯罪が多い。ノーガードの携帯が販売されたことが大きな要因。欧米よりも3年は遅れている。

意見:私もパソコン通信を楽しんだが、モラルがあった。生徒たちには「被害者にも加害者にもさせたくないから」とモラル向上を指導している。

質問:入学説明会を利用して、保護者への啓発を行いたい。

-群馬では、入学説明会に10分間のDVDを放映して啓発を行っている。知識が必要なので、誰でも簡単に講師になれるようなマニュアルも必要。

◆弘前大学ネットパトロール隊報告◆

~学校裏サイト舞台 好奇心から被害に~

ネットパトロール隊前隊長弘前大学4年
本間史祥さん(22)

写真:本間氏登壇の様子

『人と人の対話が大切』子どもがどんなサイトを見て、使っているのか見てほしい。
自分でもSNSやゲームをやった経験があるので興味を持つ気持ちはよく分かるが、被害を受ける場合も多い。ネットでも実生活でも一番大切なのは、人と人との直接的なコミュニケーション。頭ごなしにしからず、その大切さを教えていくことが必要だと思う。

学校裏サイトの監視・探索が基本活動だが、問題あるネット・ケータイサイトを見ていくと、ネットいじめ、有害情報の発信、ケータイ依存の3つの側面が浮かび上がる。今回はネットいじめ、有害情報の実態について紹介したい。

<ネットいじめ>
多くが学校裏サイトと呼ばれる匿名掲示板で起きる。「キモイ」などと他人を誹謗中傷するほか、メールアドレスなど他人の個人情報を勝手に公開する事例も多い。ケンカを誘う挑発、はやしたてる書き込みも目立つ。また自己紹介のプロフサイトのコメント欄での中傷も多く、埼玉県ではこれが原因で自殺したケースもある。

<有害情報の発信>
「登録してゲームを楽しもう」。楽しそうな表示に誘われて登録したら、実は出会い系サイトに勝手に登録され、援助交際や性犯罪に巻き込まれる。私たちが日常よく使うツールの中に、簡単に危険なサイトにつながる入り口が潜んでいることが多い。男子の場合、興味半分で見たアダルトサイトの「無料でおためし」に好奇心で登録することで、女子は占いサイトで同様の登録をし、架空請求や性犯罪などの被害に遭うケースが多い。

<防衛策は>
フィルタリングの利用率はまだまだ低いのが現状。携帯電話販売店での説明も浸透していないため、啓発が求められている。