子どもも安心して利用できるインターネット環境を実現するために、一人一人が考えていこうというイベント「1億人のネット宣言 もっとグッドネットin熊本」が、9月26・27日の両日、熊本市で開催された。

初日は、同市大江の県立劇場でシンポジウムや体験学習があり、高校生や学校関係者などが参加。
シンポジウムでは、冒頭、安心ネットづくり促進協議会(会長・鷲田清一大阪大学総長)の調査企画委員長である堀部政男氏(一橋大学名誉教授)があいさつし、その後、基調講演、対談、パネルディスカッションなどが行われた。

2日目は、同市手取本町のくまもと県民交流会館パレアで学校関係者や保護者を対象に、模擬授業、情報モラル授業の講座、インターネット・法制度・ネットいじめや、学校裏サイトへの対策などの勉強会が開かれた。

◆基調講演◆

子どもが正しくケータイを使うために

桑崎剛氏/熊本市立河内中学校教頭

写真:桑崎先生登壇の様子

携帯電話は、実にさまざまな生活の場面で利用され、機能も豊富です。

今や"電話"と言うより、"ケータイ"と言った方がふさわしいのではないでしょうか。

私が子どものケータイやネットの問題に取り組むようになったのは、熊本市の中学校で教頭をしていた時、養護教諭から「早朝から保健室に来る生徒が多い」という指摘を受けたことがきっかけでした。調べてみると、子どもたちが深夜までメールをしていることが原因だと分かりました。メールの返信に時間を取 られ、寝る時間が遅くなっていたのです。

その後、私は山間部にある南小国町の中学校に赴任しましたが、やはりここでも同じような問題が発生していました。

ある調査によると、メールを1日30通以上送信する子は、「夜12時以降に寝る」「イライラする」「勉強に自信がない」「部活動に参加しない」「親と話をしない」などの問題行動と関連があるという結果があります。

家庭では、ケータイの利用について「ルールを決めていない」が半数強、子どものケータイの使い方について親は「ほとんど知らない」が多いですね。また、高2までは男子より女子のケータイ所持率が高く、特に女子に問題が多く発生しています。

今年4月には「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(青少年インターネット環境整備法)」が施行されました。

その中に、保護者の義務、学校の義務、ネット管理者の義務がいろいろ盛り込まれています。

学校のルールも社会のルールもどちらも必要です。

また、病気に例えると、対処療法とともに原因別の根本治療と予防療法も大切です。

中高生というのは、社会性を育てる大切な時期でもありますので、子どもへの情報モラル教育の展開も重要です。

加えて、子どもに大きな影響を与える家庭や大人のモラル向上も必要だと考えています。

◆対談◆

「ネットを賢く使おう」

写真:安田美沙子さん、荻上チキさん登壇の様子

(写真上から)
安田美沙子さん/タレント
荻上チキ氏/批評家・ブロガー


荻上:ケータイの保有率は1億台を超え、今も増加しています。

安田:私は毎日ケータイからブログを更新しています。ネットでは何でもできちゃう感じですね。

荻上:ただ、ネットには怖い面もありますね。

安田:ネットで私についての書き込みを見て、落ち込んだこともあります。同じように気にしているタレントさんは結構いますよ。

荻上:学校では裏サイト(学校非公式サイト)で問題が発生しています。その多くはケータイから、サイトの掲示板に匿名で書き込みができるので、悪口を書いたり、それがいじめにつながったり、うその個人情報が流れることもあるようです。

安田:あまりネットの世界に入り込み過ぎないようにしてもらいたいですね。私はブログで、他人の悪口を書かないとか、自分が嫌なことは相手にもしないように注意しています。

荻上:子どものケータイ利用について悩んでいる保護者は、悩むよりむしろ、どう向き合っていくかを考えてみてはどうかと思います。

安田:私はいま、ランニングに熱中していて、10月には「ザ・ヒューマンレース・10キロ」という、日本と海外で同時開催される10キロマラソンに参加します。走ることのすばらしさをたくさんの人に感じてもらいたいと思って、今はネットを通じ「みんなで頑張ろう」と励まし合っています。

荻上:親の世代には、ケータイもネットもなかったので、新たに学ぶこともあるかと思いますが、子どもに解決策を指示できるようになる必要はないと思います。

例えば、子どもが病気なら適切な病院に連れて行くことが必要です。ただネットには、病気の場合の医師に当たる人や病院に当たる組織がまだ少ない状況です。

まずは、問題を解決してくれる人や組織を、ネットで見つけられるようになることが大切だと思います。

安田:ネットを活用すれば自分の世界が広がります。私のブログへの書き込みも私のパワーになっています。
みなさんも自分のプラスになるよう、ネットを使ってもらいたいと思います。

◆パネルディスカッション◆

「中高生サミット+子どもとケータイ、どう向き合う?」

<パネリスト>
桑崎剛氏/熊本市立河内中学校教頭
西山慎一郎氏/ルーテル学院中学・高等学校教諭
小寺信良氏/(社)インターネットユーザー協会代表理事
曽我邦彦氏/(社)日本PTA全国協議会顧問
寺崎秀俊氏/熊本市副市長
高須一弘氏/内閣府参事官

<コーディネーター>
永松宏章氏/熊本日日新聞社総合メディア局情報企画部長


写真:各パネリストの登壇の様子

(写真上から)
西山慎一郎氏/ルーテル学院中学・高等学校教諭
小寺信良氏/(社)インターネットユーザー協会代表理事
曽我邦彦氏/(社)日本PTA全国協議会顧問
寺崎秀俊氏/熊本副市長
高須一弘氏/内閣府参事官


永松:9月、ルーテル学院で「中高生サミット」が開催されました。主役である子どもたちは、ケータイについてどう考えているのでしょうか。

桑崎:サミットでは、ルーテル学院の中高生15名が3つのグループに分かれて話し合い、「情報モラル五カ条」という宣言文を作りました。そこには、メール利用のルールやマナー、ネット依存を回避する意識の重要性などが挙がっています。

西山:ルーテル学院では、2001年から中学・高校生にケータイの所持を認めています。学校としても、「持つにあたってはきちんと教育する」という方針で指導してきました。当然、学校では電源を切ってかばんに入れておくことが所持の条件です。

小寺:夜、何時以降はケータイを使わない、話している時にケータイをいじらない、
食事中はケータイを使わないなど、これは情報モラルではあるのですが、実は家庭のしつけの問題でもあると思います。重要なことは、怪しげなメールが届いたとき、子どもが保護者を頼りにできる関係づくりだと思います。

桑崎:よく「家庭での情報モラル教育は難しい」と言われます。子どもの賢い利用には、家庭での親の模範と指導が大事だと考えています。

曽我:今年4月に「青少年インターネット環境整備法」が施行され、子どものケータイにフィルタリング(有害情報に接続できない)機能を付けて販売することが義務づけられました。つまり、ケータイのフィルタリングをはずすことは、子どもが所持できる状態ではない。それを分かっていながら、保護者がはずしてケータイを渡すことは大きなリスクがあると、PTAとしても保護者に教育していかなければならないと考えます。

寺崎:国全体で取り組めることと、地域・学校・個人の単位で取り組むこと、それぞれ適切な役割分担で連携してやっていかなければならないと思います。

高須:「規制の前に教育を」というのは有効な取り組みだと思います。中高生が作った五カ条も紹介されましたが、中学生と高校生で少し違いがあるようです。個人ごとにも違うのでしょう。フィルタリングの問題でも実効性を高く維持するためにはメーカー側の努力も必要なようです。4月施行の「青少年インターネット環境整備法」は3年後には見直すことになっています。「もっとグッドネット」に向けて、大人が答えを模索し、子どもに教育していくことが必要であると考えています。

永松:ケータイやネットの問題は、大人が子どもと一緒になって取り組めるテーマだと思われます。もし、困難な問題に直面した場合には、教職員向けには「違法・有害情報相談センター」が、子ども向けには全国Webカウンセリング協議会の「子ども無料相談室みらい」があります。検索してみてください。