本年度の「ケータイ・インターネットとのつきあい方フォーラム」(ケータイ・インターネット教育啓発推進協議会主催、鳥取県教委共催、新日本海新聞社後援)が11月8日、鳥取市尚徳町のとりぎん文化会館で開かれた。

生活に欠かせない情報ツールとなっているインターネット端末としての携帯電話。一方で、トラブルや犯罪、違法有害情報の発信などもあり、深刻な社会問題となっている。

子どもたちを取り巻く環境を再認識するため、講演会とパネルディスカッションを通じてつきあい方を考えた。

◆基調講演◆

ネットいじめ・ケータイ依存から子どもたちを守る
~学校と家庭・地域が連携して取り組むケータイ・インターネット~

写真:基調講演を行った安川氏の様子

<プロフィール>

安川雅史氏/全国webカウンセリング協議会理事長
「学校裏サイト」問題で知られる全国webカウンセリング協議会理事長を務め、ネットいじめ・いじめ・不登校・ひきこもり問題に本格的に取り組む。
文部科学省のネット安全安心全国推進会議の委員も務める。


全国の学校の先生からの相談で多いのは、「なりすましメール」被害の調査をしたいという内容。

今年になってから半年以内であれば証拠は残り、追跡調査は可能なことは可能になった。しかし、大切なのは犯人捜しよりもまず自己防衛だ。

ケータイを持っている子は、自己防衛のために必ずなりすましメールを受け取らない設定にするのを徹底すれば、被害は撲滅できる。受け取らなければ被害者は出ない。ケータイを持つ以上は、自己責任において受け取らない設定するのは大切なことだ。

昔でいう「不幸の手紙」にあたるものがチェーンメール。最近はカメラ機能で画像を隠し撮りして広める。

チェーンメールは受け取った段階では被害者だが、転送した時点で被害者ではなくなり共犯者となる。

メールには「メールがどこで止まったかすぐ分かる」などと、脅し文句が書かれているが、調べることはできない。ただ、自信を持って教えてくれる大人がいないから、子どもは惑わされる。

ケータイの別の面、インターネット機能だが、ケータイから自分の学校の掲示板を作ったり、プロフィルサイト(プロフ)を作ったりするのにパソコンの技術は必要ない。しかし、匿名性が加わってまずい書き込みが広まっていった。

学校の先生たちには、無視しろとか見るなと言う人もいる。親もそうだが、絶対に言ってはいけない言葉だ。

ネットの書き込みは信憑性がないと思い込んでいる人ばかりでなく、信じてしまう人も中にはいる。今の時代、分からないで済まされる時代ではなくなっている。実態が分からなければ、生徒の指導はできない時代に変わってきた。

昨年12月に出会い系サイト規制法が改正され、未成年者を性犯罪から守っていくため、年齢認証システムが導入されている。しかし、子どもを狙った性犯罪者は、最初から出会い系サイトに興味はない。

小中学生とかに興味のある大人は、未成年の登録がほとんどのプロフに入ってくる。中には電話番号やメールアドレスを書き込んでいる子どももいる。2人だけで秘密のやりとりをするわけで、第三者はどういうやりとりをしているかまったく分からない。これが怖いところだ。

今の子どもたちは、広告費を取るためにプロフに平気で過激な画像を載せる。さまざまな隠語を書き込み、何かあったときに言い訳ができるようにしている。対策としてコンピューター監視などがとられているが、子どもたちは抜け道をいろいろ探す。

ブログ絡みの相談も多い。日記との違いはブログは人に見せるためにあることで、子どもたちはよく分かっていない。人に見られ、しかも見た人が書き込みできる。他人に見られているという意識がなさすぎだ。

周囲で誰も教えてくれないから、平気で他人のことを書いてしまったり、個人情報を書いて自分の首を絞めているような子どもも多い。大人が実態を理解しないと救うことはできない。

最近の架空請求は子どもが払える額に設定されているケースが多い。親に言えずに支払うのだが、こうした「わな」はネット世界にはたくさん張られ、子どもを狙った犯罪も増えている。

子どもたちを守っていく方法としてフィルタリングがある。しかし、子どもからの要望に負け、フィルタリングを外してしまう親もいる。親の責任でケータイを持たせているのだから、説得することができないでは親力が問われる。

ケータイ依存の子どもにすべきなのは、まずフィルタリング。子どもとしっかり向き合って説得しなければならない。次に家庭内のルール。普段からコミュニケーションができているかどうかになる。

今後は家庭内でコミュニケーションが成り立っていない子どもが、たくさん入学してくる。

それであっても学校教育は守っていかねばならない。どんな家庭に育った子どもでも、いいかげんな対応をして、子どもがいつ命を落とすかも分からないような対応は絶対にしないでもらいたい。

◆パネルディスカッション◆

<パネリスト>
渡部万里子氏/ケータイ・インターネット教育推進員
名越一夫氏/NTTドコモ中国支社鳥取支店長
松田佐惠子氏/鳥取県教育委員会家庭・地域教育課長
竹内善一氏/倉吉農業高校教諭
鈴木麻美さん/鳥取大学地域学部2年
中村仁美さん/鳥取大学地域学部2年

<アドバイザー>
安川雅史氏/全国webカウンセリング協議会理事長

<コーディネーター>
山岸正明氏/ケータイ・インターネット教育啓発推進協議会会長


写真:各パネリストの登壇の様子

(写真上から)
山岸正明氏/ケータイ・インターネット教育啓発推進協議会会長
竹内善一氏/倉吉農業高等学校教諭
名越一夫氏/NTTドコモ中国支社鳥取支店長
渡部万里子氏/ケータイ・インターネット教育推進員
松田佐惠子氏/鳥取県教育委員会家庭・地域教育課長

山岸:携帯電話により子どもたちがさまざまなトラブルに巻き込まれ、事件が起こっている。危険性から子どもを守るために大人の在り方を考える。

中村:中3のときに初めて携帯電話を持った。自室に持ち込まず親の前でしか使わなかった。高校で交友関係も広がり利用料が増え、親に注意されるようになり定額制にした。アンケートの結果を見て、今の時代は親が持たせたがるのかと思った。

鈴木:中1の時に親との連絡がすぐ取れるようにと買ってもらった。高1の時には常に肌身離さず持っていたように思う。友人が書き込みのトラブルに遭い、誤解を招くような書き込みをされていた。

渡部:各地で行った学習会でのアンケート結果では、保護者は何となく危険だとか、何か子どもには与えてはいけないというような漠然とした恐ろしさを感じているが、実態を知らないということが多いと思う。携帯電話を手渡した後、何かあったとき子どもと一緒に考えられる親であることが大事だ。

山岸:学校の状況は。

竹内:情報モラル教育の推進担当者研修が全県的に行われており、全教職員を対象に情報モラル教育に取り組んでいる。生徒の中にはワンクリック請求やチェーンメールを体験した者はかなりいる。近年はブログからプロフへの移行が多く、同級生とか学校内だけでなく、いわゆるサークルとして卒業生がかかわるケースがある。保護者にはPTAの研修で啓発活動もしている。

山岸:生徒へのアンケート結果で違いは。

竹内:3年生から1年生に年齢が下がるにしたがって携帯電話を持った時期が早まっていることは、はっきりしている。ほとんどの生徒の使い方がメールが中心。時間帯的にもメールの数にしても低学年にいくほど割合が増えている。

山岸:携帯電話事業者と行政はどういう対応を。

名越:30年の携帯・自動車電話サービスにおいて携帯電話の普及は、ここ20年足らずである。さらにインターネット・メールサービスは10年と歴史が浅い。この10年でめまぐるしく変化しているのが現状。通信事業者としての企業責任は非常に重く感じ、各社が2003年からアクセス制限サービスを設けている。フィルタリングの認知度は高くなっているが、機能を理解し実際に使う人はまだ少数。安全に使ってもらうための教室を開くなど、力を入れている。

松田:ケータイ・インターネット教育推進員の養成事業を実施しており、現在41人に推進員として協力いただいている。2005年度からフォーラムを開き、前年度からはNPO法人こども未来ネットワークと連携し進めている。県は青少年健全育成条例を改正し、インターネット上の有害情報への対応を強化する取り組みを進めている。

山岸:これまでの感想を。

鈴木:自分自身の携帯電話との向き合い方について、反省する点や見直したいと思う点について考えたのがいい経験になった。

中村:あらためてトラブルの危険性について思うことがなかったので、いい機会にめぐり合えた。

渡部:保護者に伝えるということを、これからもしていかなければと再確認した。

竹内:フィルタリングの必要性を再認識した。高校生にも外したり付けていない生徒が多いということで、これから取り組んでいく喫緊の課題と考える。教科の中で情報モラルについてはこれからもより深く指導していかなければと感じた。

名越:事業者として説明しなければならないことは、最近増えてきた。事業者として相談を受けられる窓口にはホットラインがあり、活用してほしい。子どもだけでなく親に加え、学校や地域と一体になって勉強することが大切だと思う。

松田:専門機関などと、いろいろな連携をとりながら進めていくことが大事と再認識。子どもたちの健やかな育ちを支援していきたい。

安川:携帯電話は怖いなと思った人がたくさんいると思う。でもこれは包丁と一緒。包丁は人を刺すための道具ではなく料理をするための道具。携帯電話も同じ。使い方を間違うからトラブルにもなるだけ。ほとんどの人が携帯電話持っているのは便利だから。取り上げると不都合で仕方がないとなる。子どもたちにも正しい使い方をしっかり教えることの方が大切だ。

新日本海新聞社提供2009年12月29日(火)<朝刊>掲載