11月1日は「おおいた教育の日」。学校、家庭、地域社会が一体となった取り組みを推進しようと、1日と10日、県内で、教育にかかわるシンポジウムや研修会があった。

「『おおいた教育の日』推進大会」は1日、大分市の県立芸術会館であり、「学校、家庭、地域が連携した教育の協働~ネット・ケータイ時代に育つ子どもと大人たちのより良い向き合い方~」をテーマにシンポジウム。
千葉大学教育学部の藤川大祐准教授が「ケータイ世界の子どもたち」と題して講演し、保護者や生徒らと話し合った。

◆基調講演◆

ケータイ世界の子どもたち
~保護者、教師、社会がすべきこと~

藤川大祐氏/千葉大学学長特別補佐教授

写真:藤川先生登壇の様子

現在の小中学生の携帯電話(以下、ケータイ)の所持状況は、ことし5月に文部科学省が発表した調査結果(全国平均)によると、小学6年生が全体の約4分の1、中学2年生が半分よりやや少ない数値を示しています。そしてどの学年も女子の所持率が高いようです。

最近のケータイはいろいろな利用ができます。子どもたちがよく利用するものとしては、メールのほかに、ホムペ(ホームページ)、プロフ(自己紹介)、ブログ(日記)、リアル(1行で今の自分の状態を書いていくもの)などがあります。

つまり、自分で自分の情報を無防備に発信していくわけです。

これらを安全に使っていればいいのですが、問題も起きています。

たとえばプロフは、だれでも容易に見ることができ、中には幼い女の子を狙って性の対象にしようとする人もいます。また殺人に発展した暴力事件も起きています。

このような状況の中では、大人は子どもを守るための対策を講じなければならないのです。

法律での規制やケータイの業界でもフィルタリング(有害な情報をシャットアウトすることができる機能)などのさまざまな取り組みが行われていますが、学校、家庭、地域でも取り組んでいく必要があります。

子どもがケータイを利用する際に気をつけなければならないことは、第1にバランスを取ることです。友達同士で頻繁に連絡を取り合うことに熱中し、そのため勉強や生活習慣などがおろそかになってしまうというようなことにならないよう、うまくバランスを取りましょうということです。

第2は、メディアリテラシーです。これは、ホームページなどの情報を発信している側の思惑をよく考えて、慎重に情報を使える能力を持ちましょうということです。

この2つを意識していれば、そんなに大きなトラブルに遭うことなくケータイを使えるということを、子どもたちに知らせることが大事です。家庭や学校でもこのことをぜひ話し合っていただきたいと思います。

◆パネルディスカッション◆

<パネリスト>
藤川大祐氏/千葉大学学長特別補佐 教授
泉幸一氏/立中津南高等学校PTA会長
工藤早也香さん/県立大分商業高等学校3年
東 茅咲さん/県立大分商業高等学校3年

<コーディネーター>
渡辺律子氏/(財)ハイパーネットワーク社会研究所研究企画部長

写真:コーディネーターを務める渡辺氏

渡辺:高校生のお2人は、日ごろどのように携帯電話(以下、ケータイ)を利用していますか。

工藤:メールや電話で使っています。わたしのケータイには、フィルタリングが掛かっているので、友達のブログを見ることができません。

わたしは中学2年生のときからケータイを持っていて、特に高校入学後はケータイに夢中になっていたんですが、最近はブログを見たいと思わなくなってきたので、見ることができなくても困るということはあまりありません。

東:わたしは高校入学後にケータイを持つようになりました。普段は主にメールや電話の利用が多く、ブログもやっています。またインターネットも利用します。

渡辺:ケータイを持っていて良かったと思うことはありますか。

工藤:学校では笑顔で過ごしている友達のホームページやリアルを見ると、悩みを持っていることがあります。

そんなときに「大丈夫?」とか「元気?」と声を掛けてあげられる点がいいと思います。

東:ブログのなかに友達登録というのがあって、メールアドレスを知らない他校の人ともブログを通して親しくなれたことです。

渡辺:怖い思いをしたり、友達で危ない経験をしたという話を聞いたことがありますか。

工藤:友達のことですが、架空請求が送られてきたことがあるそうです。

東:中学生のころ、掲示板に悪口を書かれた友達がいて、学校で集会が開かれるほどの問題になったことがあります。

渡辺:次に、保護者代表の立場で参加されている泉さんから、今、学校がケータイの持ち込みについてどんな状況なのかをお聞きしたいと思います。

泉:高等学校PTA連合会では、県立高校50校にアンケートを行いました(回収44校)。

その結果、学校内にケータイの持ち込みを許可している学校(届け出制を含む)は25校(57%)で、許可していない学校は19校(43%)でした。また、44校中、ケータイについての指導をしている学校はありませんでした。

昨年、県の事業としてPTA役員に携帯電話の研修用のDVDを配布しましたが、PTA役員が自分に直接関係ないことだったためか関心度が薄く、「見た」という人が20%弱にとどまりました。

藤川:気になるのは、子どもたちがケータイを使って、良い時間を過ごしているのかどうかということです。ある程度友達とやりとりしたり、自分の日々あったことを書いたりするのは良い時間といえると思いますが、惰性になっているとか、友達との関係でつきあわなければいけなくて負担になるということもあると思います。あるいは、怖いメールが来たりすると問題ですね。

トータルとして、良い時間が多ければいいけれど、そうでないとすれば、自分自身をコントロールできるようになってもらいたいですね。

それには、保護者と子どもが話し合うことが大切です。家族でさまざまな話し合いがなされたうえで使うなら、そんなに大きな失敗はしないのかなと思います。

ケータイに限らず、家族会議はときどきやるといいと思います。その中で親が困っていたり、心配に思っているからルールを提案するわけで、背景をきちんと説明してそのうえで子どもはどう考えるかという話し合いができたらいいんじゃないかと思います。

泉:わたしには3人の子どもがいますが、長男に対しては怒るばかりで、子どもの話を聞かない父親でした(笑)。

藤川:教育が難しくなっている時代だと思うんです。

問題はネットとかケータイだけではなくて、社会が子どもたちにどう向き合うか、ということが大人に突き付けられているということではないでしょうか。

渡辺:こういう論議を学校単位で、あるいはクラス単位で行って、それぞれが抱えている問題を情報交換していく。今後、そういう機会を増やしていくことが重要なのではないでしょうか。