子どものネットや携帯電話の利用について話し合うフォーラム「どうする子どものネットとケータイ~もっとグッドネットin岡山~」(山陽新聞社主催、全国地方新聞社連合会、テレビせとうち後援、安心ネットづくり促進協議会協力)が6日、岡山市北区石関町の岡山県総合福祉会館で開かれた。

基調講演に続き、教育関係者や保護者、事業者らによるパネルディスカッションがあり、情報教育とともに心の教育の大切さや家庭でのルールづくりなどが話し合われた。父母や祖父母、学校関係者ら約100人が熱心に聞き入った。

◆基調講演◆

ITが苦手でも"大人だから"できることがある
~未来の優れた使い手を育てる、被害者候補にも犯罪予備軍にもしない~

尾花氏のプロフィール写真

<プロフィール>
尾花紀子氏
ネット教育アナリスト
1984年日本IBM入社。各種コンサルティングや教育、プロバイダー事業、キッズ教育ソフト監修などに携わり、2005年フリーのコンサルタントに。
監査機関の理事や行政機関の委員として青少年のネット環境づくりにも幅広く寄与している。


携帯などのITツールは、子どもたちの身を危険にさらすこともある。携帯メールを使って洗脳し、宗教の勧誘をされた例もある。人気のプロフでは、リンクから個人情報が流出する可能性がある。社会人になって、情報漏洩で大きな失敗をすることもある。出会い系サイトだけではい。大人が適切に教えてくれない現状のままでは、子どもたちは被害者候補にも、犯罪者予備軍にもなりうるのだ。

子どもが携帯を持つようになったきっかけの半数以上は親だ。「家族間でいつでも連絡がとれる」「持っていると安心」と買い与えるという。こうしたことからも、大人は責任を持って、よい使い方を子どもと一緒に考えたいものだ。

新ビジネス

一方で、「ツイッター割引」や携帯クーポンサービス、新しいファッションショービジネス、携帯配信付きテレビドラマも登場し、便利で魅力的なサービスが次々登場している。

背景はパソコン創世記に生まれた社会人が、ITを活用した新しいビジネスを生んでいるからだ。環境への配慮から今後、電子申告やオンラインショッピングも今以上に普及するだろう。

1980年代にパソコンや携帯が登場し、90年代に入ると、インターネット環境がPCに標準装備されるなどIT環境完成期を迎える。つまり、今の20代以下の世代は生まれたときからITツールが存在し、中学・高校生以下はネットワーク・インフラのない社会さえも知らない世代だ。

ルールづくり

危険性の反面、魅力を増すITツールなのだから、一方的に携帯を禁止せずに、ITをうまく活用できる子にしたいものだ。

小さいころから、ネット犯罪などITツールの危険性について、家庭で会話するなどし、判断する力を育てたい。思春期の男の子特有の興味から、危険なインターネットや携帯サイトに追いやらない工夫が大事だ。女子のプロフも禁止するより、親に相談しやすい環境をつくるほうが、効果的だ。

家庭ではルールを守れば自由に使える環境を作ってあげて、成長に合わせ、ルールが厳し過ぎないかどうか一緒に見直すことも大事だ。ルールを基準とし、叱り方も的確でないとならない。要は、自分の力で解決する力を身につけることが重要だ。

子どもに正しいインターネット環境をつくるカギは、「共有」。ITが苦手でも、大人が教えてあげられることはたくさんある。親子で話し合うことが大事だ。学校、地域が意識と情報を共有し、コミュニケーションを深めていきたいものだ。

◆パネルディスカッション◆

子どもとケータイ、親子でどう向き合う?

<パネリスト>
高橋誠氏/ライブドアカスタマーサポートセンター長
高尾敏也氏/岡山県教育委員会指導課総括主幹
中村誠志氏/岡山県PTA連合会副会長
尾花紀子氏/ネット教育アナリスト

<コーディネーター>
植田威氏/NPO情報セキュリティフォーラム理事・事務局長

登壇したパネリストの写真(写真上から)
植田威氏/NPO情報セキュリティフォーラム理事・事務局長
高尾敏也氏/岡山県教育委員会指導課総括主幹
高橋誠氏/ライブドアカスタマーサポートセンター長
中村誠志氏/岡山県PTA連合会副会長

植田:子どもと携帯電話(以下携帯)について、県PTA連合会のお考えと保護者の思いは。

中村:保護者の多くは、携帯は苦手なうえ、適切に関与できていない。一定のルールは決めたとしても、親として漠然とした不安はある。県PTA連合会としては、平成21年4月の青少年インターネット環境整備法に合わせ、小中学生に携帯を持たせないなどの内容を盛り込んだアピール文を採択した。一方で、ITツールの進展と国際競争に生き残れる人材の育成という観点から、一方的に排除してしまうだけでいいのか課題はある。

植田:子どもたちと携帯についての岡山県内の実態と学校や県教委の取り組みは。

高尾:平成20年の県内の公立校での実態調査によると、小学生の20%、中学生の50%、高校生の96%が携帯を持っている。メール文が稚拙で誤解を招いたり、個人情報の公開、昼夜を問わない呼び出しなどの問題が挙がっている。ブログやプロフは簡単につくることができるため、使い方を学ぶ前に、使用が始まることも多い。学校園では、持ち込みを禁止としているが、子どもたちは、家庭では自由に使い、危険もはらんでいる。もちろん、学校園では指導をしていく。持たせても、持たせていなくても、教育が必要だ。子どもたちには、判断力と自制力、責任力を身につけてほしいと考える。

岡山県教委では、21年10月からネットパトロール事業を実施すると同時に、情報モラル教育、先生の研修や保護者への啓発活動を行っている。保護者には、使用する場所や時間帯を決めるなど、年齢に合わせたルール作りの提案をしている。同時に事業者にも要望を出している。

植田:情報リテラシー(読み解く力)向上のために、サイト事業者も取り組んでいると聞く。

高橋:産業界や教育関係者、有識者などが参加して、安心ネットづくり促進協議会をつくっている。同協議会では、啓発事業や調査企画事業を行っている。これに先立ち、われわれは04年9月から、学校や教育委員会、警察と連携し、苦情や相談を受け付け、ブログやプロフ、掲示板などのパトロールを地道に行い、トラブルを未然に防ぐなどしてきている。

私見だが、学校裏サイトの不適切な書き込みについては、削除を急ぐよりも、教育的な観点から、見守ることや、書いた人を特定して、指導することが有効だと思う。情報リテラシー向上にもつながると思う。

高尾:基本的には、時と場合に応じて、相手の気持ちを考えられることや規範意識、人としてマナーを身につけるなどの心の教育が最も大切だと考えている。携帯の具体的な使い方の教育と両輪で、充実した情報教育の視点が必要だ。

植田:学校裏サイトが社会問題になっている。

高橋:事業者として、学校裏サイトなどへのパトロールを主にしている。一概には言えないが、学校裏サイトの内容は、報道されているほど、件数が多いわけではない。一部で問題のある書き込みがあった場合でも、子どもたちが相互に、自主的な削除依頼を促すなど、よりよい使い方を工夫する姿が見られる。判断力が身につけば、一定のルールの下で、楽しむことができるはずだ。

植田:使い方を上手に教えながら、携帯を持たせる良い方法は。

尾花:小さいころは、子どもをひざに乗せて、パソコン画面の操作方法を身につけさせるといい。携帯については、親の携帯の貸し出しや親の管理下で子どもに携帯を使用させるなど一定の試用期間をつくってから、買い与えることをお勧めしたい。親に相談できるうえ、内緒ができない。会話も弾む。期間は、家庭によって違っていい。さらに、家庭ごとに決められたルールは異なることから、授業参観などを活用し、ルールを持ち寄り、発表、親子で情報を共有することもいい。

安心ネットづくり促進協議会では、もっとグッドネットポータルサイト内に、携帯の使い方を親子で学び、ルール作りができるコンテンツ「ケータイ家族モバミ」を新たに公開している。

植田:子どもに判断力、自制力などをつけるためにまず、家庭がやらなければならないことがある。

中村:他人を思いやることや誰が見ているのか分からないこと、書き込みに責任を持つなど一人の人間として基本的なことを伝えることが家庭の役割だ。最終的に責任を取るのは、子どもと保護者なのだから。

高尾:公共でのマナーでは、大人こそ反省しなければならないことが多くある。まず、大人が襟を正し、お手本にならなければならない。教育現場では、子ども一人ひとりがいきいきと生活できるために、心の教育を推進したい。

高橋:そのうえで、困ったことがあればあきらめないで、われわれのような相談窓口をまず、尋ねてほしい。何らかのお手伝いが必ずできると思う。

尾花:2015年を目標に全小中学生へのデジタル教科書導入が検討されている。こうした意味でも、子どもたちは、良いITの使い手とならねばならない。子どもたちは、携帯を使って、効率よく勉強するなど、大人が思っている以上に賢く活用していることも知っておいてほしい。

山陽新聞提供2010年3月30日(火)<朝刊>掲載