青少年の携帯電話の利用について考えるシンポジウム「もっとグッドネットin富山~どうする子どものケータイ」がこのほど、富山市の県総合福祉会館で開かれました。

利便性の半面、子どもたちがトラブルに巻き込まれる危険も伴う「ケータイ」の安全な利用に向け、大人がどう対処していけばいいか、情報教育にかかわる専門家や県内のPTA関係者らが意見交換しました。

◆基調講演◆

ケータイ世界のこどもたち-保護者、教師、社会がすべきこと-

写真:藤川氏登壇の様子

<プロフィール>
藤川大祐氏
千葉大学学長特別補佐教授
教育方法学・授業実践開発専攻。
メディアリテラシー、ディベート、環境、数学、アーティストとの連携授業など、新しい授業づくりに取り組む。
文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」委員なども務める。


小中学生の携帯電話(以下、ケータイ)所持率はどれくらいでしょうか。

昨年発表された文部科学省の調査によると、小学6年生で4分の1、中学2年生で半数弱が持っています。安全に使えばいいのですが、問題も起きています。

まずはメール。子どもたちはメールが来たらすぐに返事をしなければ、という感覚があります。そのため家では四六時中ケータイを近くに置いています。学校を離れた場所でも同調することが強いられているのです。

次にプロフ(プロフィールサイト)です。自己紹介を書き込むサイトで、誰でも見られます。未熟な子どもたちが、無防備に情報を発信したためにトラブルが起きています。

もう1つ注目したいのはSNS機能付きゲームです。ネットをつないで仲間と交流しながらゲームを楽しむもので、悪い大人が入り込むことや、料金の問題があります。

出会い系サイトでの犯罪は減ってきていますが、逆に出会い系に分類されないサイトで増えてきています。子どもたちが学校の名前を付けて非公式に開設した「学校裏サイト」で目立った事件は起こらなくなっていますが、いじめの陰湿化は心配です。

以上が子どもとケータイを巡る概況です。家庭で考えてほしいのはルール作りです。料金について話し合い、金銭感覚を身に付けさせなくてはなりません。
利用時間・場所を制限することも大切です。

業界では有害サイトにアクセスさせない「フィルタリング」や、サイト監視といった取り組みを行っています。法による保護も充実してきてはいますが、悪質な利用者に関する情報共有などを進めなくてはなりません。

子どもがケータイを利用する際に気を付けてほしいのは、まずバランスの取れた生活をすることです。ケータイは便利ですがやることが偏りがち。ほかにもいろんなことを経験してほしいのです。

もう1つは「メディアリテラシー」。メディアの向こう側にいる人を意識し、批判的に読み解く力です。無料の懸賞サイトがあったら、「個人情報を集めている」「詐欺ではないか」と、送り手の意図を考えられるようにするのです。これらのことを子どもたちに伝え、日常からそういう力を養っていく教育が必要です。

◆パネルディスカッション◆

子どもとケータイ、親子でどう向き合う?

<パネリスト>
藤川大祐氏/千葉大学学長特別補佐 教授
鎌田真樹子氏/「魔法のiらんど」安心安全インターネット向上推進室長
佐野行浩氏/県高校PTA連合会副会長・砺波高校PTA会長
上野敏浩氏/県総合教育センター科学情報部研究主事

<コーディネーター>
渡辺律子氏/ハイパーネットワーク社会研究所研究企画部長


写真:パネルディスカッションの様子

渡辺:子どもとネットの問題について、子どもたちにどう伝えるかは難しい課題です。それぞれの立場から現状を話してもらい、大人ができることを考えたいと思います。

佐野:保護者代表で参加しました。携帯電話(以下、ケータイ)利用に関しては、○か×かと言われれば×にしたい。いくら気を付けていても向こうから危険がやって来ます。あえて、子どもたちを危険にさらすことは防ぎたいと思います。

上野:持たせる、持たせないの議論より、子どもたちにどう教育していくかが重要だと思います。情報モラルの教え方です。ケータイの所持にかかわらず、個人情報が勝手に書き込まれるなど、ネットトラブルに巻き込まれる危険性はあるからです。

鎌田:ケータイのインターネット上にホームぺージを作るサービスを提供する会社「魔法のiらんど」で、子どもたちの利用状況を見守ってきました。子どもたちに注意を促しつつ、悪い者を排除する「アイポリス」チームを立ち上げています。安全に活用できる能力を身に付けられるよう取り組んでいます。

渡辺:保護者の不安や、身近にあった相談などを聞かせてください。


写真:パネリスト登壇の様子

<プロフィール>
佐野行浩氏
県高校PTA連合会副会長・砺波高校PTA会長
平成8年から14年間、小・中・高校の各PTA役員を歴任。17年から2年間、県PTA連合会副会長、20年から現職。PTA活動以外では中学校野球部の外部コーチを務める。

<プロフィール>
鎌田真樹子氏
株式会社魔法のiらんど・安心安全インターネット向上推進室長
利用者数600万を超えるモバイル最大級のコミュニティサイト「魔法のiらんど」の運営に携わる。平成14年から現職を務め、青少年が安全にインターネットを利用できるよう教育・啓発活動に取り組む。


佐野:砺波高校で実態調査をしました。ケータイの所持率は96~97%、パソコンは98%が使っています。男子はゲーム、女子は書き込み系が多いようです。事件には発展していなくても、不当請求やチェーンメール、知らない人から呼び出しを受けたという事例がありました。しかし親が知らないことが多いのが実情です。PTAで研修会を開いていますが、他人ごとと思っている人が多いと思います。

渡辺:学校教育への期待も大きいのでは。

上野:県内小中学生の現状について紹介します。ケータイを持っていない率は小学6年生が80.6%、中学3年は58.7%です。平日のネット利用時間が1時間以上なのは小6が20.3%、中3で43.4%です。中には4時間以上という児童・生徒もいます。利用時間が短い児童・生徒の方が、テストの平均正答率が高い傾向がみられます。小6の4.2%、中3の20.4%がほぼ毎日ケータイで通話やメールをしています。県教委ではインターネット上に「ネットあんしん富山」を昨年開設し、対処法、相談窓口を掲載しています。IT講師の派遣も行っています。

渡辺:どうしてそんなにケータイに夢中になっているのでしょうか。

鎌田:今の子どもたちは生まれたときからインターネットやケータイが空気のように存在しているので、大人とは全く感覚が違います。直感的にインターネットの可能性が分かるのです。双方向でやり取りができ、主体的に情報発信できることが楽しい。ケータイ小説を書くと反応があり、それに触発されて考え、学んでいます。居場所を見つけることもあります。

藤川:子どもたちにどう育ってほしいのか、考えなくてはいけません。民間企業はコミュニケーション能力で判断することが多く、よくしゃべる人が内定をとります。しゃべるのは苦手でも書くのは得意という人もいるはずで、多様な人が協力して社会をつくるとき、もっといい方向でネットは生かせるはずです。

渡辺:ネット上でうまくコミュニケーションを図れているとしても、実際の生活でうまくいくかどうかという心配もあります。

藤川:日本には「うち」と「そと」という概念があります。ネットでコミュニケーションを取るのは「うちら」の中にいる数人だけで、それ以外ではほとんどコミュニケーションをしていません。多様な人と協力する関係が築ける利用ならいいのですが。

渡辺:次に、企業の取り組みを紹介してください。

鎌田:サービスを提供する私たちは、利用者に対して啓発活動をしています。子どもたちが利用するサービスに関しては自ら監視、削除を続けています。こういう企業は増えており、2年くらい前に「EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)」による認定制度ができ、レベルが上がりました。


写真:パネリスト登壇の様子

<プロフィール>
渡辺律子氏
ハイパーネットワーク社会研究所研究企画部長
教育におけるIT活用、学校における情報モラル教育についての研究活動を中心に、啓発活動を行う。中小企業庁委託事業「情報モラル啓発事業」でセミナー開催、ビデオ作成の企画なども担当する。

<プロフィール>
上野敏浩氏
県総合教育センター科学情報部研究主事
富山商業高教諭を経て平成18年から現職。小中高特別支援学校を対象とした教育の情報化推進に取り組む。特に情報モラルの指導に力を入れており、教員の研修会や生徒への直接指導などを行う。


渡辺:ネット上のサービスはいろいろありますが、大人は十分に知らないのではないでしょうか。これからすべきことを聞かせてください。

佐野:大人が現実を知り、知識を持つこと。コミュニケーションがしっかり取れる子を育てるためには、やはりケータイ依存には問題があると思います。料金面についてもルールなどを話し合うことが重要で、親としての責任を考えるべきだと思います。

上野:ネット社会が成熟するのを待っていると、子どもたちが危険な目に遭ってしまいます。学校とPTAが連携して教育をする体制作りが必要です。特にマナーを教えていかなければなりません。

鎌田:3年、5年後に情報化社会がどうなるか、私たち事業者でも分からないぐらいです。しかし、子どもたちは3年、5年、10年後の社会で生きていくのです。将来を想像した上で逆算し、今の子どもに何が必要なのかを考えることが大人の力です。

藤川:ケータイの問題をきっかけに、今こそ子どもの教育について大人が協力するチャンスかもしれません。大人同士がネットでつながり、家庭や学校、地域で大人と子どもが話し合うことで、子どもを巡るさまざまな環境が良くなるのではないでしょうか。

渡辺:「自分に知識がないから、親子間でケータイについて話をするのは難しい」と親は言います。それなら、分からないことを子どもに聞けばよいのです。大人がどれだけ情報社会に目を向けるかが問われる時代です。「危ないから」と目を遠ざけるのでなく、大人自身が関心を持つことが大切です。