「もっとグッドネットin山口」(県高等学校PTA連合会主催、山口新聞社など後援)が2月6日、山口市大手町の県教育会館で開かれた。
中、高校生の携帯電話所持率が上がっている中、保護者は何を教えるべきか、また学校や行政の役割は。講演会とパネルディスカッションを通じて、携帯電話の利用について親子でどう向き合うかを考えた。
◆基調講演◆
ITが苦手でも"大人だから"できることがある!
<プロフィール>
1984年日本IBM入社。各種コンサルティングや教育ソフト監修他携わり、2005年フリーのコンサルタントに。
ITのプロと母親との両目線で現状を分析する「ネットアナリスト」として、監査機関の理事や行政機関の委員として青少年のネット環境づくりにも幅広く寄与している。
携帯電話の所持を禁止することで、かえってトラブルが起きているという例が実はある。小学生の場合は、学校で携帯電話の持ち込みを禁止していても親が持たせていることもある。逆に、中・高校生の場合は、あまりに駄目だと言われるので内緒で何かをして、そのせいで、何か起こっても相談が出来ずに、トラブルが大きくなってしまうケースが出ている。闇雲に禁止すのというのは、時代の流れからあってはいけないこと、特に高校生くらいの子どもを持つ保護者や先生方には考えてもらいたい。
皆さんのお子さんが社会に出て、社会人として活躍していく時代は、オンラインショッピングなどが当たり前の時代。携帯を取り上げて、安全ならいいとその場をやり過ごしていると、新しい社会に放り出されて困ってしまう大人になってしまう。
30歳代から上の世代は、人間的に成長したあとでパソコンや携帯電話が出てきており、ルールやマナーをわきまえた使い方が出来る世代。しかし、20歳代から下の世代は、自分の遊び道具として使い始めた世代なので、社会人になってからどんなことをしていいか、いけないのかの感覚が備わっていない。彼らには、教育が必要ですが、上の世代の人たちは、何が分からないか分からない。ルールもマナーも誰からも教わらないまま子どもが社会に出て、「会社の機密を漏らしたから懲戒解雇」といったことが自分の子どもや生徒に起こってしまう可能性も否定できない。
今は、携帯なしでは社会人として生きていくことも辛い時代に突入している。緊急連絡のほかにも、新幹線のチケットなどを手に入れるにもネットで予約するような時代を生きていかなければならない子どもたちには、携帯電話を取り上げたらいいということではなく、正しい使い方に少しずつ導いてあげればいい。まだ、子どもたちにしてあげなければいけないことはたくさんある。大人なら気付くことをどんどん伝えていってあげなければ。
インターネットは、新聞やテレビと違い、見たことによって生じる危険がある。子どもたちが隠れてネットを使わないといけないようにしないでもらいたい。あとは、今の小、中学生が知っている携帯の知識は身につけて欲しい。分からなかったら子どもに教えてもらってもいい、子どもたちが知っていることを知っているだけで会話が増えていく。親子の会話や先生と生徒の会話は減っている中では、内緒のことが出てきてしまう。子どもが社会に出る前にいろいろな話をしながら、つまずきそうなところやあぶなっかしいところについてアドバイスをしてあげることができる関係作りをしてほしい。
◆パネルディスカッション◆
子どもとケータイ、親子でどう向き合う?
<パネリスト>
辻岡博之氏/山口県立山口高等学校定時制教頭
松田健一氏/山口県公立高等学校PTA連合会副会長
石川恵理子氏/山口県立下関南高等学校PTA会長
尾花紀子氏/ネット教育アナリスト
<コーディネーター>
小寺信良氏/インターネットユーザー協会代表理事
小寺:携帯電話の所持率は15歳で大きく上がっており、高校生になると9割の生徒が携帯電話を持っていることになる。
辻岡:定時制高校では、多くの生徒が仕事を持ち、実際に携帯電話で仕事の打ち合わせなどしていることから、学校に携帯電話を持ち込むこと自体は制限していない。ただし、授業中は使用しないなど一般的なマナーの指導はしている。また、業者を招いての携帯安全講習を行い、出会い系サイトの事案など実際にあったトラブルを説明してもらった。
(写真上から)
松田健一氏/山口県公立高等学校PTA連合会副会長
石川恵理子氏/山口県立下関南高等学校PTA会長
尾花紀子氏/ネット教育アナリスト
辻岡博之氏/山口県立山口高等学校定時制教頭
松田:私は現在、3人の男の子がおり、3人とも高校に入ると同時に携帯を持たせた。基本的には、高校生程度になれば携帯の使用そのものを制限する必要はないと感じている。しかし、長男の場合は、実際に出会い系サイトにメールを送ってしまい、法外な請求がきたこともあった。携帯を持たせる年齢に応じたフィルタリングサービスを利用することは必要ではないか。
石川:娘が中学入学後に携帯を欲しがったが、色々な犯罪に巻き込まれるのではという不安などから中学生の間は反対していたが、娘が高校に合格した日に携帯を持たせた。高校生になると、帰りも遅くなるのでしょうがないかとは思う。
小寺:高校生の9割が携帯を持っているという状況を踏まえた上で、1つ目のテーマの携帯所持は規制すべきかについて考えてもらいたい。
松田:高校になると、校区も広がることから、携帯で交通情報を調べたり、家族と連絡を取ったりする必要があることから、一定のルールを定めていれば使用させていいと思う。ただし、寝る間を惜しんでメールなどをしないよう携帯の使用について親子間の取り決めは必要。
石川:中学生まで全く携帯に触れず、高校生になってきちんと使えるかという問題点はあると思う。まったく、携帯電話を遮断するのではなく、使い方をきちんと教えた上で親のいるところで使うようにといった配慮が必要ではないか。
尾花:今、都会では携帯は連絡の手段として大切、自分だけ持っていないと、連絡が滞ってしまうので、親に嘘をついてでも手に入れたいと思う子どももおり、それを利用しようとする子どももいる。子どもたちを犯罪もどきのようなことに導かないためにも、親はまず子どもの話に聞く耳を持ってほしい。
小寺:山口県での学校への持ち込みを禁止状況は。
辻岡:学校ごとに条件は違うと思いますが、私の知っている限り、多くの公立学校では絶対に持ってきてはいけないとは指導していないと思う。使い方に制限を設けて持ち込んでよいというところが大多数では。
小寺:約2000人が対象の調査で学校への携帯持ち込み禁止で、トラブルは解決しないと応えた父兄は約8割だった。保護者は、何を知り、何を教えるべきか。
尾花:保護者としては、アナログな人間のコミュニケーションを教えてあげる以外ない。携帯のことを子どもほど知らない親は、説明しようと思ってもつまずいてしまうので、子どもたちが自分で考えさせるように仕向けてあげるような接し方を模索してほしい。
小寺:家庭の中で子どもの心に入っていけるのはやはり母親だと思いますが。
石川:私は、携帯電話の支払い明細や請求書を子どもに見せることにしている。明細を見ながら、「今月はちょっと料金が低かったね」などと会話していると、子どもが使っている様子を話してくれるようになった。
小寺:親の役割は分かりましたが、学校や行政は何をすればよいか。
辻岡:子どもの発達段階に合わせて携帯の持ち方は教えていかないといけない。高校を出た後、社会に出る生徒もいるので、きっちりした使い方は教えるべき。良いところは利用し、問題点はしっかりと意識してトラブルに巻き込まれないようにするべきだと思う。
尾花:携帯やインターネットの使用についての「我が家のルール」を考えるよう学校で呼び掛け、授業参観の日に発表し合う場を作ってほしい。家庭ごとに、ルールがあってもバラバラでは、友人間でトラブルになるだけ。個々の家庭のルールだけが存在していても意味がない、それをつき合わせて初めてルールが潤滑に回る。ルールを付き合わせるのは、学校でしか出来ないこと。
松田:行政と各学校、PTA、地域が連携して情報モラル教育や学習などを増やしていくことが必要。実際に小、中学生のときから携帯を持っており、高校に入ってから情報モラル教育を行うのは遅いかと。
<プロフィール>
小寺信良氏/インターネットユーザー協会代表理事
1984年より映像編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年に文筆家として独立。2007年に現団体の前身となる「インターネットユーザー先進ユーザーの会」を設立。主な著書 Content's Future(翔泳社)、メディア進化社会(洋泉社)など。
小寺:新聞やテレビなど今までのメディアは一方的に情報を受けるだけなので、「この情報は本当かな」と疑う力や見抜く力をつける情報モラル教育でよかった。しかし、自分が情報の発信者となるインターネットを利用する際には、情報を使いこなす情報リテラシー教育が必要となる。日本は子どもたちの携帯電話普及が一番進んでいる国なので、皆さんで知恵を集めながら情報社会への橋架けをしたいと考えている。
みなと山口合同新聞社提供2010年2月27日(土)