「もっとグッドネットinとちぎ~どうする?子どものネットとケータイ」(特定非営利活動法人「e-とちぎ」主催、栃木県PTA連合会共催、下野新聞社など後援)が3月20日、パルティとちぎ男女共同参画センターで開かれました。

「もっとグッドネット」は一人一人がインターネットについて考え、安全に利用できるようにする活動です。今後、子どもたちへの利用方法に関する指導や対応をどうすべきか、有識者による基調講演とパネルディスカッションの内容を紹介します。

◆基調講演◆

子どもが正しくケータイを使うために「家庭」「学校」「地域」が果たす役割

写真:桑崎氏登壇の様子

<プロフィール>
桑崎剛氏
熊本県熊本市立河内中学校教頭
安心ネットづくり促進協議会特別会員
日本教育工学協会(JAET)理事
文部科学省「教育の情報化総合モデル支援事業」企画評価委員など務める。「子どものケータイ問題」に関する記事掲載など多数。


携帯電話は、いつでもどこでもできるという利点もありますが、授業中や病院の中などでも利用できるという問題もあり、これは日本特有の問題でもあります。

携帯電話の問題を考えるとき、主役は子どもで、監督は保護者です。学校や教育委員会はあくまでコーチだと思います。欧州では、子どもが携帯電話を買う時の所持目的の1番は必要性です。日本の子どもの1位は「友だちが持っているから」とよく聞きます。これは所持目的の理由でしょうか。「誕生日のお祝い」「成績が上がった」という、ご褒美的な要素も大きいです。

携帯電話は生活にはなくてはならない便利な道具ですが、いろんな問題もあります。数年前に家族旅行でフィンランドに行った時です。ここで不思議に感じたことは、携帯電話で話をしている人は見掛けましたが、メールなどをピコピコやっている光景はなかったのです。フィンランドに限らずアメリカも同じですが携帯電話でメールやネットをやっている方が世界的には珍しいんです。

なぜやる必要がないのか。実はパソコンでできるので、あえて携帯電話を使わないのです。日本はワイヤレスランの整備が遅れた分を携帯電話で肩代わりしています。外国ではネットやメールの利用はパソコンを重点的に使っています。

携帯電話は便利な半面、有害なサイトにも簡単につながってしまいます。文部科学省の調査によると中1で4割、中2で5割、中3で55%が所持しています。ただし、中1は男の子3割、女の子5割、中2では男の子4割、女の子54%となっており、明らかな男女差があります。高校2年で同じくらいになります。

大阪府の寝屋川市教育委員会の調査では「ホームページを見た」「書き込みをした」という回答で女子の方が倍近くあり、さらに「会ったこともない人とメールをしたか」という質問では、男子31.8%に対し女子は52%でした。

子どもたちのネット環境を整備するために昨年4月1日に新しい法律ができました。この中に「子どもたちを有害情報から守るため、これからは家庭と事業者とでスクラムを」と明記されています。親の義務として不適切なサイトを閲覧しないようにフィルタリングをつけることが明記されました。

昨年、栃木県内の取り組みで川柳・標語コンテストが行われました。小学生の部では「ママ聞いて メールするより わたしの話」が最優秀賞でした。子どもの携帯電話の問題は、親が根本から子どもとの向き合い方を考える必要も意味していると思います。

◆パネルディスカッション◆

子どもとケータイ、親子でどう向き合う?

<パネリスト>
桑崎剛氏/熊本県熊本市立河内中学校教頭
蔵田三沙代氏/(株)ガイアックススクールガーディアン事業責任者
川島芳昭氏/宇都宮大学教育学部附属教育実践総合
柳澤恵子氏/栃木県PTA連合会情報委員会委員長

<コーディネーター>
小寺信良氏/一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事・コラムニスト


写真:パネルディスカッションの様子

小寺:最初に「子どもの携帯所持は、規制すべき」という問題についてお伺いします。携帯電話の所持規制では石川県が「いしかわ子ども総合条例」で小中学生に携帯電話を持たせない努力義務を規定しました。栃木県青少年のための良い環境づくり実行委員会でも「子どもには携帯電話を持たせないようにしよう」という方針が出されていますね。手応えはどうですか。

柳澤:携帯電話をいくら持たせないようにしましょうと言っても、持たせる理由として子どもの安全とか、親の不安解消があります。GPSなどで居場所が確認できることは、親からすればこれほど便利な道具はないと思います。特に県内で女児誘拐殺人事件が起きてからは、子どもを守るためにさまざまな活動が盛んになりました。親として何ができるかと考えた場合、携帯電話を持たせるという発想が出てきたのではないのでしょうか。

小寺:栃木県青少年のための良い環境づくり実行委員会委員の川島先生、提言のきっかけを教えてください。

川島:栃木県の子どもの携帯電話の所持率の高さからです。そのことによりさまざまな諸問題が学校関係から指摘されました。栃木県も対策を取らなくてはいけないというのがきっかけです。

小寺:今、持っている人はどうすればいいですか。

川島:よく誤解を受けますが「持たないようにしましょう」という行動アピールは解約をしてください、と言っているわけではありません。「持たない」ことの意味をしっかりえた上で、まず使い方の見直しをしてくださいということです。

桑崎:川島先生がおっしゃった持たない意味を考えてほしいというのは、親子でしっかりネットに向き合ってほしいということです。「危ないから持たせない」「友だちが持っているから持つ」で済まされる問題ではなく、それは問題を先送りしているだけです。

小寺:携帯事業者の良いネットづくりの環境づくりが遅れたのも一つの反省点です。民間の蔵田さんの会社では早いうちから始めていますね。

写真:登壇する蔵田氏の様子蔵田:スクールガーディアン事業(学校裏サイト対策サービス)を始めたのは2007年からです。きっかけは兵庫県で学校裏サイトでいじめにあった高校生が自殺してしまったからです。社員一同、心を痛めました。

ガイアックスという会社は、ソーシャルメディアと言われている書き込みサイトを中心にいろいろな仕事をしている会社です。場を提供するだけではなく、学校関係者などに社会貢献をしていきたいと思っています。

小寺:ところで「保護者は何を知り、何を教えるべきか」という問題があります。インターネット利用者について適切な教育者は「保護者」という声が9割です。柳澤さんはどう考えますか。

柳澤:最近、学校とか公共施設で各携帯電話会社が出張してマナーや問題点の講習会を開いてくれています。その中で夜10時すぎや食事中は使わないとか、掲示板に悪口は書かないとか、インターネットと知り合った人とは会わないとか、禁止事項が並べられます。これって小さいころに、学校で教えてもらった事に似ていませんか。「夜10時すぎにテレビを見ない」「知らない人に付いていかない」「遊びながらご飯を食べない」「友だちの悪口を言わない」とかと、すごく似ているんです。普通の生活と同じようにモラルの向上を図り、自分で良い悪いの判断ができるようになれば、道は外れないと思います。また、子どものしつけをする前に、大人もルールを守らなければなりません。携帯電話のリスクをしっかり伝え、親が背中で教えていくことが必要だと思います。

写真:小寺氏登壇の様子小寺:子どもの携帯電話で頻度が高いのはメールです。メールにより日本の社会構造が変わってきているとも思います。

桑崎:メールで漢字が書けなくなるのは明らかですが、一番、心配なのは本を読まなくなることです。日本では日記みたいなものがブログだと思われていますが、世界標準だとイメージは違います。ブログは研究成果を発表するという、もっとアカデミックなものです。ブログについても多くの課題があります。

蔵田:私は高校生の時から携帯電話を持っていましたが、メールをすることは好きではありません。お母さん、お父さんたちも電話をすればいいのにメールで済ませていることが多いのではないでしょうか。連絡の目的を達成するというところで、メールに頼らずにやっていけばと思います。

川島:街頭インタビューをまとめたものがあります。宇都宮市内の女子高生では1日メール300通以上というは当たり前です。その子たちの会話能力は非常に低下しています。メール利用回数が多いとする生徒ほど、会話がすべて単語になる傾向があります。

柳澤:親として一番気になるのは子どもの利用料金です。その時にどこに相談するかというと、使っている携帯電話会社に行くケースが多いと思います。しかし「どうしたらいいでしょうか」と聞いても、回答は私たちのニーズに合わないことが多く、もっと適切な指示がありがたいです。

小寺:最後に「学校の役割、行政の役割」ついてお願いします。まず、学校への出前講座に行かれている蔵田さんが、苦労されている点はありますか。

蔵田:昨年11月に東京都杉並区の和田中学校の「よのなか科 NEXT」で授業を行いました。ほかの学校から依頼もありますが、多くの学校では、カリキュラム等の関係で、学校や先生独自では、出前講座の実施を決められない難しさがあります。

桑崎:新しい指導要領では情報モラル教育に積極的に取り組むことが重要視されています。小学校では携帯電話の所持率が低いため、保護者も学校もあまり緊急性を感じていない現状がありますが、本当は交通道徳のように小学生のころの指導が大切だと思います。

川島:情報モラルは日常モラルの延長上にあります。きちんと日常モラルができないのに、いきなり飛躍して情報モラルを指導してもできません。きっちり学校が認識し、行政も認識しなければなりません。学校も講習会や研修会を開き、地域も協力した3者の体制づくりをやっていかなければなりません。

小寺:これから先の情報社会では、情報リテラシー教育を子どものころからやらなくてはなりません。情報社会が進展した日本の宿命、課題でもあります。みなさんと一緒に知恵を出し合いながら、次の情報社会に発信していきたいと思います。本日はありがとうございました。