3月13日、高新文化ホールで「もっとグッドネットin高知」(高知新聞社主催、高知県小中学校PTA連合会共催)が開催されました。

小中学生の携帯電話所持が珍しくなくなった現在、それに伴ったネット犯罪やトラブルの件数が増加。危険を回避し、犯罪を防止するためには、子どもと保護者、学校、それぞれが役割を持ち、環境を整備する必要があります。
基調講演とパネルディスカッションを通じて、子どもの携帯電話のより良い利用方法について考えました。

~親が子どもを見守ることで、ケータイトラブルは未然に防げる~

◆基調講演◆

「子どもが正しくケータイを使うために家庭・学校・地域が果たす役割」

熊本県熊本市立河内中学校教頭
安心ネットづくり促進協議会特別会員
桑崎剛氏

写真:桑崎剛氏

<プロフィール>
東京理科大学理学部数学科卒。
東京都公立中学校教諭、熊本県立中学校教諭などを経て、熊本市立中学校教頭に。
教育の分野でのコンピュータの活用に関する論文を多数書き、球摩・人吉教育論文特選受賞。学会発表、講演活動も行う。
日本教育工学協会理事、行政機関の委員などを歴任。
子どものケータイ利用に関する問題、教育に取り組み、それを生徒に指導する傍ら、文部科学省時報や新聞などで執筆、監修も行う。


まず、ネット社会の現状について、世界標準がパソコンなのに対し、日本はケータイという独自の文化を形成しています。この背景には、ヨーロッパ諸国がワイヤレスLANの環境が整っているのに、日本のネット整備が遅れてケータイがその肩代わりをしていることが理由の一つ。そのため、子どもたちの間でメールやネットトラブルが増加しています。

例えば、プロフィルや写真が簡単に掲載できるプロフ。

不特定多数に個人情報を知られるおそれがあり、さらに見知らぬ相手と手軽にやり取りをすることも多くなっています。大人ならある程度の嗅覚を持って対応できますが、子どもではそれを見抜く力がありません。

中高生の場合、会ったことのない相手と伝言のやり取りだけで恋愛感情が生まれることがあり、個人が特定できる情報を簡単に伝えてしまうこともあります。そこから、犯罪に巻き込まれるケースが多いのです。

そして、要注意なのがコミュニティーサイト。掲示板に悪口、あるいは出会いを求める文章を書き込み、それが発展して犯罪につながる傾向にあります。

写真:パネルディスカッションの様子そこで、制定されたのが「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」。

子どもたちを有害サイトから守るために、家庭と事業者とでスクラムを組み、健全なネット社会を構築しようという内容です。

例えば、不適切なサイトをブロックするフィルタリング機能を付けるなど。危険が回避できる重要な機能なのに、実際に利用している家庭が非常に少ない。実は、日本では多発しているのに、欧米諸国ではケータイの問題があまり聞かれません。
その理由が垣間見られる調査があります。

「自分がネットを使った後、親は履歴をチェックしていると思うか」という質問を、アメリカと日本の子どもに行ったところ、アメリカは43.1%、日本は12.2%。実際にチェックしている親は、前者が41.8%、後者が15.1%でした。

日本では、子どものケータイを見ることは悪いことだと親が感じているのかもしれませんが、アメリカでは安全を守るための行為だと割り切っています。

ある調査では、親が子どものケータイの使い方について見守っていれば、子どもの方が利用方法に気を配り、その分、危険が低くなるという結果が出ています。

学校では、ケータイの情報モラル育成を行っていますが、あくまで、主役は子ども、監督は保護者、学校はコーチという立ち位置。

まず、ケータイを購入する前に、使い方やルールについて親子間で話し合い、持たせた後もそれが守られているかチェックする必要があります。

それらを行うことでトラブルの被害が少なくなり、ネット社会も大きく変化していくのではないでしょうか。

◆パネルディスカッション◆

子どもとケータイ、親子でどう向き合う?

<パネリスト>
藤本浩之氏/高知県小中学校PTA連合会会長
山中千枝子氏/千斗枝グローバル教育研究所代表
石原友信氏/安心ネットづくり促進協議会事務局次長

<コーディネーター>
桑崎剛氏


~犯罪に巻き込まれそうな発信の仕方が問題~

藤本:親の子どもに対する心配事といえば、以前は遊び場所の少なさや事故などでしたが、今ではケータイ、ネットといった情報的なことに変わってきています。

写真:山中千枝子氏

山中千枝子氏/千斗枝グローバル教育研究所代表

山中:現職の頃、校長会やPTA連合会などで「子どものネット遊び、トラブル」についての講演を聞き、知らないことで起こるネットの被害について、危機感を持ちました。市民インストラクターを招いて活動をはじめ、現在、私もその一員として高知市、高岡郡を中心に見守り活動を行っています。また、高知市の補導センターや高知県警ともタイアップをして動きはじめたところです。

桑崎:山中さんはネットパトロールをされているそうですが、一番、心配していることは何ですか。

山中:犯罪に巻き込まれそうな発信の仕方をしている「プロフ」が気になります。顔写真や氏名、生年月日、学校名、家族構成など、本人が特定できる情報を公開していることが多いです。

桑崎:友達などの限られた人たちだけに、自分のプロフを公開していると勘違いしている子どもが多い。私は該当する子どもに、「あなたに悪意を持っている人がいて、公開している個人情報でお金を借りたり、あなたになりすまして他者を誹謗中傷したら責任が取れるの」と聞いたことがあります。すると、大抵の子どもが、「そんなことまでできるの」と驚く。

山中:最近、友達の個人情報を勝手に公開し、第三者が被害に遭ったという相談をよく受けます。

藤本:ネットに関する情報が多すぎて、子どもが得たネットの知識に、親が追い付けていないということも問題では。

石原:ネット社会は急速に発展しているので、対応が難しいもの。われわれの団体は、無料の出前講座を行っているので、ぜひ学校やPTAなどの組織で利用してください。


~ケータイを持つ目的やルールを書かせる~

桑崎:私が学校で行っているケータイに関する授業では、まず、ネットの危険性を説明します。そして、ケータイを持つ目的やルールを考えさせた上で、誓約書を書かせるんです。それは、親に対して、しっかり考えていることを示すための証明書みたいなもの。これを見ながら親子で話し合ってほしいんです。ネットトラブルでよくある例は、誰にも相談できずに一人で抱え込み、周りが気付いた時には事態がひどくなっているというもの。ケータイ問題は、親子で向き合うことが大切だと思いますが、藤本さんはいかがですか。

写真:藤本浩之氏

藤本浩之氏/高知県小中学校PTA連合会会長

藤本:まず、親自身がケータイの危険性に対する認識が甘いですね。子どもたちがどんなサイトを見ているかチェックしていない。有害サイトの誘惑に負けない勇気を持たせること、自分が書き込む内容によって、相手が傷つくかもしれないということを気付かせることなど、そんな人間的なフィルタリングを子どもにつけることが親の役目ではないかと思います。

石原:ケータイのトラブルは、なかなか気付きにくいもの。何か会った時に、すぐに相談できるような親子関係を普段から築くことが大切です。また、インターネットをする時に、三つの力が必要だと言われています。情報が正しいかどうかの「判断力」、違法や有害サイトへアクセスしない「自制力」、自分の言動によって発生するトラブルに対して責任を負う「責任力」です。これらを子どもに養うことが重要。そして、この三つがまだ備わっていない小さな子どもについては、フィルタリングをして防御するか、音声通話のみのケータイを与えるなどの工夫をしてほしいと思います。


~すぐに相談できるような親子関係を築く~

山中:発達途中の子どもは、3つの力を使いこなすことが難しいのが現実。子どもがどんなネット遊びをしているか、保護者が知らないこともネックになっています。フィルタリングをかけていても、グレーゾーンで遊んでいる子どもが多い。まず、ケータイを持たす前に、パソコンでインターネットをしながら、サイトの良し悪しを親子で検証し、話し合ってみるのはいかがでしょうか。

桑崎:大切なのが、子どもと向き合うということと、何でも話せる環境づくり。「子どもがケータイの着信音にビクビクするようになった」など、トラブルに巻き込まれたのかもしれないという信号を見逃さないこと。警察庁が報告書で記載した「家庭でのケータイ利用に関するルール」の中に、「自宅内では居間で使うこと」というものがあります。実は、アメリカのFBIも同じことを言っている。これは、ケータイが普及してなかった時代を思い出していただくと分かりやすいです。固定電話が居間か玄関にしかなかったので、誰とどんな内容の話をしているか家族が知ることができました。これが自然のフィルタリングになっていたんです。

写真:石原友信氏

石原友信氏/安心ネットづくり促進協議会事務局次長

石原:大人のケータイマナーについても気にかかります。公共の場所で、若者がマナーモードにしているのに対し、大人がそれをしていない。

桑崎:大人に、子どもと話している時に、ケータイをしていますかというアンケートを取ったところ、3割がイエスでした。子どもが重篤な病気で担ぎ込まれても、メールを打つ親がいるなど非常識な例もあります。ケータイ問題は、子どもだけでなく、大人の在り方についても考えていかなければなりません。知った人からそれを広め、地域全体でケータイのモラル、リテラシーについて話し合ってほしいですね。

高知新聞社提供2010年3月31日(水)<朝刊>掲載