2014年7月25日(金)、「熊本市民会館崇城大学ホール・大会議室」において、総務省九州総合通信局と安心協の共催により「青少年の「ネットルール」を考えるフォーラム in 熊本」を開催し、186名の方に参加いただきました。フォーラムでは基調講演と今回の主役である熊本市立江南中学校の取組発表を受けて、関係者がパネルディスカッションを行いました。

青少年の「ネットルール」を考えるフォーラム in 熊本

基調講演

スマートフォンとSNS時代における情報モラルの力

講師:桑崎 剛氏(熊本市立総合ビジネス専門学校 教頭)

ネットではこれまで表に出なかった文章や情報が多くの目に触れる状況となっているが、問題はスマホやSNSが引き起こすわけではなく人間が起こしており、トラブルの原因はコミュニケーション力と規範意識、想像力の欠如にあること。家庭や学校でそれらを養う育みや、その力をつけることが必要であること等についてお話をいただきました。

写真:桑崎氏登壇の様子

ネット利用に関する「江南ルール」の取組発表

発表者:熊本市立江南中学校 推進委員会の皆さん

江南中学校の発表では、昨年11月のネットトラブルをきっかけに情報モラルの学習を通して、当時2年生だった学級委員の発案で自校のルールを作る話し合いがスタート。今年の3月に「江南ルール」が誕生し、推進委員による実施状況のアンケートを行ったところ課題が判明したため、ルール見直しの集会を行い、修正案を生徒議会に提出。生徒議会の承認を経て7月15日に全校ルールとして採択されるまでの取り組みの過程が報告されました。
また、ルール導入後のアンケート調査では、健康を守るための「夜10時以降はさわらない」ことは4分の1の人が守ることが出来ていないこと、「プライバシーを載せない」ことも4分の1の人が守ることが出来ていないこと、「心が傷つく書き込みをしない」ことは5%の人が守られていないと感じていること等の課題がありました。自分たちで発案した教材を教師と一緒に授業することで解決しようとする取り組みや、ルールを作ったことによる効果を、寸劇を交えながら日常生活の様子が会場にわかりやすく伝えられ、多くの成果と今後の課題を上手くまとめて発表されました。

写真:江南中学校発表の様子1

写真:江南中学校発表の様子2

写真:江南中学校発表の様子3

パネルディスカッション

コーディネーター:
桑崎 剛氏(熊本市立総合ビジネス専門学校 教頭)

パネリスト:
山本 英史氏(熊本市教育センター 指導主事)
楠本 誠二氏(熊本市PTA協議会 副会長)
井島 信枝氏(子どもねっと会議所 代表)
カマル・カルナーラタナ氏(ルーテル学院中学校 教諭)
髙木 雅子氏(熊本市立江南中学校 教諭)
江南中生徒代表


写真:パネルディスカッションの様子

江南中生徒の発表に続き最初のパネリストとして、髙木先生の発表がありました。生徒が自ら考えていくために、教師による「土壌づくり」(話し合いのスキルを身につけ、表現できる場を作り、みんなの役に立つ実感を持てる、お互いの考えや気持ちを交流し、このテーマで素敵な大人と接点を持つ)を行い、授業を通じて志を持つ(立志式)意識を高めてきたプロセスの紹介がありました。「江南ルール」は『生徒』と『教師』が協同する構図にも意義があったとお話しされました。

生徒と髙木先生の発表を受けて、パネリストが意見を交わしました。
山本氏は、これまでの約10年にわたるネットモラルの様々な取り組みを経て、中学生自らがルールを作り守っていこうという姿勢が出てきたことや、各地でネット研修会の要望が飛躍的に増えていること等、変わりつつある状況のお話がありました。いつの時代も変わらない「思いやりの心」を大切に、不易と流行があることを前提に取り組んでいきたいとのお話がありました。

楠本氏は、PTAの立場から自分たちで守れるルールにするために、議論をするプロセスが大事であること、またそれを広めることを連携して取り組みたいとのお話がありました。また学校の成績とネット利用の関係では、全く使わない人や使いすぎる人ではなく、適度に活用している人が成功していくと考えられると話されました。

井島氏は、福岡県の中学校の事例で、作ったルールを生徒の世代が変わっても続けることの難しさについて紹介がありました。また保護者は、子供のネット利用が分からなくてもそれをコンプレックスと感じるのではなく、子供に教わったり一緒にルールを守るなど「家庭でもルールが定着する土壌づくりが大切」とのお話をいただきました。

カマル氏は、自校のルーテル学院でも課題を整理してルールを作る計画があるとの紹介があり、情報モラルの重要性を生徒は理解しているが、いかにそれを実行に移し定着させるかを今後の取り組みとしたい。また、ぜひ日本以外にもこの取り組みを紹介していきたいとのお話がありました。

推進委員長の生徒は、ルール作りにあたって、既存の整理された基準が無かったことや、生徒全員が守ってくれるかという不安と、夜10時は早いという意見もあったが、11時だと心のゆるみが出ると考えて夜10時を変えずに通したことなどを伝えてくれました。みんなの本気さがうれしかったが、ルールをよりよく使えるかは難しかったことなどの感想がありました。生徒会議長の生徒からは、一度提案されたルールに対して多くの意見が出たことから、推進委員会に再度見直すよう指示し、あらためて決議したことなどの苦労話が紹介されました。会場の生徒からの意見としてはルール化して半年経過した今でも夜10時は厳しいという意見があると紹介しました。

会場からは、ネットについて、つい最近まで高校生中心に課題を考えてきたことが中学生中心に移り変わってきたことへの驚きと感嘆の声があがりました。

江南中学校の髙木先生は、理解していても出来ないことや理想の目標に向かって突き進む生徒の純粋さに感心しつつ、今回のように「発信」の場が設けられたことで、さらに深く考え、悩み、迷い、確かな一歩を持てたことに関係者にも感謝したいとの話がありました。
ルールを作ってもトラブルを完全になくすことは出来ないかもしれないが、ルールについて考え合うことで、それぞれの生徒自身が乗り越える力をつけることが大切であるとの話でパネル討議が締めくくられました。